第3章 匠の手Ⅵ あま木工所 山内 宏俊
― 天性のモノづくり感性で、手際よく、正確に、美しく ―
あま木工所 山内 宏俊
そんな山内に「MOCTAVEのキャビネットとサイドボードを作らないか」と打診があった。
大変であることは一目見て分かった。
通常、扉や側板は一枚板もしくは数パーツの組み合わせでできているが、
この家具は扉一つとっても多くの樹種を含む数十種類のパーツで構成されている。
それぞれの木目を読みながら、一枚の板からできるだけ多く木取りしなければならない。
しかし、それでも大変さを感じる以上に面白いと思った。試作の話をすぐに引き受けた。
取り組んでみて気づいたのが、多数のパーツを美しく組むのは時間との勝負だということだ。
接着剤の塗布に時間差があると、硬化し始めた接着剤が木に浸透せず、
美しく圧着できないので素早く組まなければならない。
工程を合理的に進めるために冶具(ジグ)が重要になるが、
山内も自分なりの工夫を凝らした冶具を作った。
そして、この冶具によってキャビネットやサイドボード前面のオスティナート・パターンが
手際よく組み上げられるようになったのである。
山内が目指すのは、有名な家具職人になることではない。
使う人が喜んでくれ、紹介してくれた建築家や大工さんも
喜んでくれる家具を作り続けられる職人になりたいと言う。
そして、そんな家具作りが日本でも定着していくと信じている。
その重要な一歩を、山内はMOCTAVEとともに歩みだしている。