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第3章|匠の手Ⅴ

2015.08.15 Saturday

 

第3章 匠の手Ⅴ

― 天性のモノづくり感性で、手際よく、正確に、美しく ―
あま木工所  山内 宏俊

山内はとても木に詳しい。家具作りを始めたら木のことをもっと知りたくなり、
木材のことをより学ぼうと製材所で三年間修行を積んだ。

愛知県で生まれ、専門学校でインテリアを学んでから建具屋で働いた。
次第に家具に興味が湧いてきて、職業訓練校で家具作りを学んでから高山の工房に来た。

三~四人規模の工房で、主宰者は山内に材料となる木材の買いつけ、
木取り、加工から塗装まで一人で担当させてくれた。
分業しないで、すべての工程を自分一人で担ったことが、若い山内にとっての財産となった。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_TVボード2
そして、三年後に製材所に修行のために移った。
広葉樹の製材は特殊で、扱っている製材所も少ない。
そこで原木の買いつけや乾燥の仕方、原木から良材を得るための製材を学んだ。

木は奥深い。
たとえば丸太に膨らみがある。
中に本当に節があるのかどうかは、切ってみなければ分からないが、
膨らみの形状からある程度予測することができる。

切ってみて、きれいな木目が出ると嬉しくなる。
製材一つで、材料の価値も変わってくるからだ。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_TVボード

その後、独立して個人工房を開いた。
最初は頼まれて、一枚板を磨いて平面を出す仕事を請け負っていた。

木が好きな山内にとって、無心になって取り組める仕事だったが、
次第に建築家や大工さんから家具作りの仕事を頼まれるようになった。
そして口コミで評判が広がっていった。

木と家具以外に山内が心ひかれるものが、大工道具だ。
いい道具は見ているだけでも惚れぼれする。
木を切ったり削ったりするのも、道具を使うのが楽しいからかもしれないと思うことすらある。

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第3章|匠の手Ⅳ

2015.08.14 Friday

 

第3章 匠の手Ⅳ  宮沢家具設計製作 宮沢 高

 

そんなときにモクターブのテーブルを担当しないか、という話がきた。
聞いてみると、コンセプトには自分でも驚くほど共感した。
しかし難易度が高い。多くの人が断ったという。

たとえばテーブルの天板は大きな面積なので、
多くの樹種を組み合わせて作ると木の動きの影響を受けやすい。
そんな難しさがいくつもある。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_テーブル5しかし、それでも職人魂がうずいた。
逆に考えれば、それらが上手くいけば表情が豊かになる。そ
れが、モクターブの醍醐味だと思った。
確かに、一枚板のテーブルと比べると工程数は十倍以上にもなるし、
商品として作る以上、自己満足に陥らず、ニーズや納期も制限がある。
それでも「やりたい」と思った。

動きを抑えるにはどうすべきか。
まず動きが生じにくい方向での木取りを考える。
そして、数ミリ厚く木取りしておいて、表面を削って木が動くかどうか探る。
動くとさらにもう一度削って動くかどうか確認する。
これを時間をかけて繰り返す。

そうしておいてから木づくりすると、テーブルにした後の動きが少なくなるのだ。
まさに、木と知恵くらべ、根くらべである。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_テーブル3だが、そうやって組み上げられたテーブルには、
種類の異なる木と木が響き合っているかのような調和が生まれる。
このテーブルを囲めば、きっと会話が弾むだろうし、ケンカなどしないに違いない。

このテーブルの中で木と木とが調和しているように、家具を介して
使う人と作った職人との間でも響き合うものがある。
そんな家具を作り続けたいという宮沢の姿勢は、モクターブの家具作りにも貫かれている。

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第3章|匠の手Ⅲ

2015.08.13 Thursday

 

第3章 匠の手Ⅲ

― 木と根くらべをして、調和を生み出す ―
宮沢家具設計製作 宮沢 高

神奈川の湘南・茅ケ崎で育った。
そんな海の街で育った宮沢が、海のない飛騨高山に移り住んだのは十五年ほど前のこと。

学生時代にバックパッカーとして世界中を回った。
その経験から、自分はどんなことをしてでも生きていけるという自信があった。

卒業後にサラリーマン生活を始めたが、どうにも日常に収まりきらない自分がいることにすぐに気づいた。

そんなときに、何気なく休日の散歩で家具店に入ってみた。
木の素材が宮沢に何かを語りかけているような気がした。
なぜか、無性に家具を作りたいと思った。
それまでは、家具や木材を意識したこともなかったというのに。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_テーブル4

そうして、家具作りが学べる職業訓練校を探し、高山に移り住んだ。
卒業後はすぐに家具メーカーで働いた。
最初の二年間はラインで働いたが、その後四年間は試作部門に配属された。
渡された図面を見て、どうやったら形にできるのか、一から考えるところから始めた。

次に、修理部門に異動し、一人で修理をこなした。
これも、どうやっていいか分からず、一から考えた。
どちらも慣れるまでに時間はかかったが貴重な経験だった。

そうした工場での仕事のかたわら、工場ではできないことをやってみようと思って、仲間と工房を借りた。
五時に退社して、それから夢中で家具を作る。気がつくと深夜だ。
急いで帰って眠る。そんな毎日を繰り返した。

そして独立した。口コミで多くの客から注文が来る。
キリスト教会の椅子を作ったら、他の教会からも頼まれるというように、どんどん広がってきた。

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第3章|匠の手Ⅱ

2015.08.12 Wednesday

 

第3章 匠の手Ⅱ  永田 康夫

永田の息抜きは、夏だったら工房の脇を流れる小川でイワナを手づかみすることだ。
近くの川でするフライフィッシングのフライも、もちろん自分で作る。
遊びと仕事の間に継ぎ目がなく、見事なほどに滑らかに繋がっている。

木と樹が大好きで「立木も含めて尊敬している」と公言する。
家具を作れば作るほど木と樹の奥深さに驚かされる自分がいるのだ。
「高山で樹に最も詳しい家具職人の一人」と周囲からも言われるようになった今でも、その姿勢は変わらない。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_椅子2MOCTAVEでは椅子を担当する。
しかし、すんなりとモクターブ・プロジェクトへの参加を決めたわけではなかった。
好きなテーマで自由に家具作りに取り組む。
すでにそうした境地に達し、それが可能な条件を自ら切り拓いてきた永田にとって、
プロジェクトへの参加は、自分を縛る可能性もあった。

しかし、デザイナー山本の熱意に突き動かされて、とりあえず椅子の試作を始めてみると、
予想以上の難しさに直面した。

若い木を使う場合は木の動きをおり込んで対応を考えるのだが、
モクターブの椅子では対応方法が場合によっては一脚ごとに異なってくる。
知恵が必要だし手間もかかる。
しかし、豊富な経験から対応の引き出しを多く持つ永田だからこそ、
モノづくりの面白さを改めて感じてもいた。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_椅子3そして、いつの間にか、「モクターブ・プロジェクト、やってみようか」と気持ちが固まっていた。

「若い広葉樹ならではの動きや表情と向き合い、それを楽しみながら家具を作ればいいではないか」
それが、永田の到達した結論である。

木を100%活かそうとするモクターブには、これからの家具の可能性が込められている。
木を尊敬しているからこそ、そう永田は深く思っている。

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第3章|匠の手Ⅰ

2015.08.11 Tuesday

 

第3章 匠の手Ⅰ  永田 康夫

― 家具職人の「手の力」 ―

モクターブ・プロジェクトに参加する職人は、みな飛騨地方の出身ではない。
日本の別々の地域で育った彼らは家具作りに惹かれて飛騨に移り住んだ。
共通しているのは、森に生きている「樹」と材になった「木」の両方が大好きであるということ。

そして家具を使ってくれる人との関係をとても大切にしているということだ。
彼らにはデザイナー山本真也が語る「職人の手の力」が溢れるばかりに宿っている。
そうした彼らが、モクターブ・プロジェクトに合流した。
このプロジェクトでしか集まり得なかった。そんな職人たちである。

 

― 家具を作れば作るほど、樹を敬慕する気持ちが強くなる  ―
ふうゆう工房  永田 康夫

飛騨高山を代表する家具職人の一人である。

埼玉県大宮市で育ち、東京の大学に学んだ。
その永田が高山に移ったのは、大学時代の先輩が高山に住みついて、
家具作りを始めていたからだった。

32MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_椅子
「自分もちょっとやってみようかな。そう思って始めたのが、
いつの間にか40年にもなってしまって」

子供の頃から工作は得意だったが、家具は全く素人だった。
職業訓練校で学び、一つひとつの技を覚えていった。
そして親方のいる工房で五年間働き、独立した。
今では数多い飛騨高山の個人工房だが当時はほとんどなく、草分けとも言える。

ほどなく、多くの雑誌に取り上げられるようになり、
テレビでも紹介されるようになった。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人_椅子
永田の家具作りは、製作の工程を最初から最後まで一人で担う。
他人の手が入らないが故に、納品先に気に入ってもらえても、もらえなくても
すべてが自分に返ってくる。
おのずと感性や技術に厳しくなり、細部までこだわるようになった。

たとえば永田の作る椅子は曲面に部品を組みこむことも厭わない。
曲面に接する胴付き(ドウツキ)と呼ばれる部分にもカーブを持たせなければならないから
工程が複雑になるが、面白いと思うと徹底的に細部まで追求してしまう。
ひと手間多くかけることが苦にならないのだ。

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第2章|意匠の道のりⅣ

2015.08.10 Monday

 

第2章 意匠の道のり     家具デザイナー 山本真也

― 家具職人の「手の力」 ―

もちろん、家具を形にしていくには職人の技が欠かせない。
しかし家具職人なら誰でもいい、というわけにはいかない。
木のことをよく知っている人、木が好きで木との知恵くらべを楽しめる人でなければ
MOCTAVEを作ることはできないからだ。

そしてモノづくりが本当に好きで、そこに自分を捧げている人、それがクラフツマンシップであり、
その姿勢がにじみ出てくるのが職人の「手の力」なのだと思う。
それがなければ、とても取り組めないのがモクターブという家具なのである。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_森_職人Ⅲ

そう思って家具職人を粘り強く探し続けた。
そのために、東京・新宿の事務所を引き払い、飛騨に拠点を移した。
そして、これはと思った腕のいい職人さんを一人ずつ工房に訪ねて行った。
コンセプトを語り、デザインを見てもらい「面白い」と思ってくれる人だけが残った。

それが、永田さん、宮沢さん、山内さんの三人の家具職人だった。

高山の家具職人を代表する大ベテランの永田さん、中堅として意欲的に活動している宮沢さん、
そして製材にも詳しい若手の山内さん。
試作しては、樹種や配置をデザイン面、製作面から検証し意見を戦わせる。
気がつけば何時間も経過している。

こんな組み合わせは、このプロジェクト以外では二度と実現することはない。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人Ⅳ

 

― いつまでも変わらない美しさこそ ―

このプロジェクトは、家具デザイナーと家具職人が互いを尊敬し、戦い、調和して家具を作る。
だからこそ、モクターブは職人さんの「手の力」が感じられるデザインを追求してきた。
20年近く前にザ・チェアを見たときに感じたことを、
自分たちのやり方で手を加え、深化させ、また人々に伝えるのだ。

そして、デザインには新しさも取り入れるけれど
それは何十年使っても古くならない新しさでなければならない
。何十年も使ってもらいたい家具だからこそ、そのことにこだわりぬいた。

それが、MOCTAVEにかけた家具デザイナーとしての想いである。

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第2章|意匠の道のりⅢ

2015.08.09 Sunday

 

第2章 意匠の道のり     家具デザイナー 山本真也

― オスティナート・パターンが生まれた ―

多彩な木の表情を活かす。
それがモクターブの最大のコンセプトである。
三年半ほどの間に何十ものデザイン案を出しては検討してきた。
木の表情を引き立てるために、一部に金具やガラスなどの素材を用いることも決めた。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_デザイナー_パーツそうして、椅子とテーブル、キャビネットとサイドボードという最初の四つのデザインが固まった。
広葉樹の多彩な表情を組み合わせ、その一つひとつの材の持つ表情の違いを調和とリズムで表現する、
独自のオスティナート・パターンができ上がったのである。

オスティナートとはバロック音楽によく現れる、
同じパターンやリズムを繰り返し反復させることで、
聴く人に心地よさを感じさせる技法のことである。
種々の樹々の配置の反復が、見る人に心地よいリズム感と
調和性を感じさせることから、そう名づけた。

デザインに込めた想いは、第1に無垢材の持つ力強さや存在感を
しっかりと表現したいということだ。
だから木の様々な面が見えるように配置した。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_デザイナー_職人第2は光が生む陰影をデザインに取り込むということである。
オスティナート・パターンの材に敢えて隙間を設けることで、テーブルでは上から射す光が、
床に木漏れ日のような柔らかな陰影を描く。
キャビネットやサイドボードでは、扉を開けたときに背面から入ってくる光が、内部に光芒を生み出す。

加えて、オスティナート・パターンの凹凸が光の当たる角度によって影の変化をもたらすため、
昼と夜、あるいは太陽の光の射す方向などで、時間によって異なる表情を生み出すのである。

2MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人MOCTAVEのデザインモチーフは基本的に直線主体だが、
椅子は背もたれの部分が両サイドまで湾曲して回り込むラウンドチェアのフォルムを採用した。
そしてこの湾曲した木の外側に、抉るようなカーブを設けている。
この曲面は機械では削りきれない部分が出る。
これを職人の丹念な鉋がけにより滑らかに削り仕上げる。
フォルムに人が触れるとき微妙な優しさを感じるはずだ。

使う人には家具に毎日、触ってほしい。
その姿を見て美しいと感じてほしい。
機能的に用途を満足させているのはもちろんだが、家具は毎日、触って、見て
「いいなぁ、美しいなぁ」と思えるものであってほしい。

そうしたデザインフィロソフィーを、MOCTAVEには込めた。

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第2章|意匠の道のりⅡ

2015.08.08 Saturday

 

第2章 意匠の道のり     家具デザイナー 山本真也

― 時間を超えて愛されるデザイン ―

家具デザインをしたいといっても、当時は家具メーカーにデザイナーの求人などはなかったので、
インテリアデザイン会社で内装設計やプロダクトデザインを実践的に学んだ。
空間やヒューマンスケールについて多くの訓練を受けた期間でもあった。

その後、商業デザイナーとして独り立ちした。
一人でプロセス全体に責任を持つことで、そこでしか得られない発想や
クオリティーを学ぶこともできた。

2MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_デザイナーしかし什器や店舗の内装は、新しさ、斬新さこそが求められ、
永く使われるようにデザインされることは少ない。
什器と家具、この二つはデザインという言葉は同じでも考え方が全く違う。
作っては数年でリニューアルというサイクルに、
デザイナーとして満ち足りないものを感じていた。

そんなときに河尻さんと出会ったのだった。
だから、この家具を手がけたいと強く思った。

 

― 答えは木が教えてくれる ―

正直に言えば、このプロジェクトがスタートした当時は
今のようには樹のことも木製の家具のこともよく分かってはいなかった。

まず無垢材について経験値が圧倒的に足りなかった。
無垢の木は湿度の変化によって「動く」「あばれる」。
木目の方向を考えながら、その「動き」や「あばれ」を手なずけなければならない。
頭では知っていても経験的な知識ではなかった。

丸太から製材をして天然乾燥させ、次に人工乾燥にかけ、
養生期間を経て初めて材として使えることも知ってはいたが、
実際に体験したことはなかった。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_森_家具デザインでは多くの場合、製材された材料を前提にして考える。
ところがMOCTAVEは、その製材のところから考えなくてはならない。
材料にする広葉樹は、小径木の若い木が多く、それだけ動きやすい。
けれども製材の仕方一つで、作りやすくなり無駄も減らせる。

さらに樹種本来の色味をだすためには、材によって天然乾燥の期間も変わってくる。
そんな製材方法までプロジェクトチームで考え、進めていくのがMOCTAVEなのである。
それが正しい時もあれば間違っている時もある。
答えは木が教えてくれる。

だから毎日、ぼくたちは木と知恵くらべをしている。
そして今、おそらくぼくは日本の家具デザイナーとして、とても貴重な経験をしているのだと思う。

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第2章|意匠の道のりⅠ

2015.08.07 Friday

 

第2章 意匠の道のり     家具デザイナー 山本真也

― 広葉樹に圧倒された ―

「小径木の広葉樹の木材を活かしたい」
「その多彩な表情の素晴らしさを、多くの人に知ってもらえるような何か、を作りたい」

初めて会ったとき、プロジェクト・オーナーの河尻さんはそう語った。
連れて行ってもらった倉庫で積み上げられた木材を見上げると、木の力強さに圧倒された。
まるで語りかけてくるような迫力とでも言ったらいいのだろうか。

初めて耳にする樹種も多く、こんなに種類や色があるとは思ってもいなかった。
気がつくと「この表情をどうしたら伝えることがでるだろうか」と考え始めていた。
今から思えば、積み上げられた木材の前で二人の気持ちが共振したのかもしれない。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_デザイナー

そして、これを表現するのは家具しかないと確信した。
なぜなら、家具は人々の生活の中に根差して一緒に暮らすものであり、
服などと同じようにその人の考えや生き方、感性そのものを表現するものだからだ。
特に木の家具は人とともに暮らす中で、人と同じように成長していく。

 

 

― なんて美しい家具なんだろう ―

高校生のとき、美しい家具に魅せられた。
美術が好きで、少年時代までは絵描きになりたいと思っていた。
それが大きく軌道修正したのは、デンマークの家具デザイナーである
ハンス・J・ウェグナーのザ・チェアを見たときだった。

デザインはもちろん素晴らしい。
しかし、それ以上に作った人の心まで伝わってくるようで、衝撃だった。
そして、家具デザインをやろうと決意した。
美大に進んで、絵ではなく、プロダクトデザインを学んだ。
とにかく家具をデザインしたかった。

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第1章|樹への想いⅣ

2015.08.06 Thursday

 

第1章 樹への想い   プロジェクトオーナー河尻和憲

― 「大きな物語」を紡ぐ ―

今、日本の広葉樹の木材供給は衰退している。
その理由は、大量消費の中でコストの低い輸入材が使われるようになったためで、
その結果、高山でも家具用としてはほとんど供給されなくなっている。

日本の材を使っていかなければ、こうした衰退を止めることはできない。
山も森も、林業や木材業が成り立たなければ荒れていき、よい木材を供給できなくなってしまう。
このプロジェクトは、小径木の広葉樹をできる限り使うことで
日本の森林を育て循環させ、守っていこうとしている。

今の日本で販売されている家具のほとんどは
中国や東南アジアの工場で大規模ラインによって生産されている。
ラインで生産される家具は一人の職人で一つの家具を作り上げるわけではない。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人Ⅳ-2たとえば、部品としての椅子の脚を削り出す人、その脚を組みつける人。
そのように細分化された作業で構成されている。

けれども、MOCTAVEの家具職人は1人で椅子1脚を作る。
1人でテーブル1台、キャビネット1台を作るのだ。
家具のことが好きで好きでなければ、そんな職人になることはできない。
そして、その家具職人の技術が継承されていくためには
愛される家具を送り出し、使い続けてもらうことしかない。

MOCTAVE_広葉樹_木材_家具_職人Ⅳ

 

―  使い込むほどに愛着の湧く家具に ―

だから、MOCTAVEは壊れたり古くなったりしたら、捨ててしまうような家具ではない。
20年でも30年でも使い、そしてもし傷んだら修理して使ってほしい。
そんな生き方を愛する人にこそふさわしい家具である。

2007年のプロジェクトのスタートから試行錯誤し、ウィスキーが樽の中で熟成するように、
時間をかけてじっくりと磨き上げられたMOCTAVE。

今、ここに送り出すことができる喜びを噛みしめている。

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